卵は「完全栄養食」とも呼ばれ、さまざまな栄養成分がバランスよく含まれている食品です。特に、3大栄養素の中でもたんぱく質のもとになるアミノ酸の質と量が最高と言われています。
卵にたんぱく質が多く含まれることはよく知られていますが、ビタミンやミネラルなども数多く含まれていることは意外と知られていないようです。卵黄部分には、コリン、コレステロール、ビタミンA、B2、B5、B12、葉酸、リン、セレニウムなど、人間の健康維持に欠かせない栄養成分が数多く含まれています。このうちコリンとは、体内でビタミンに似た働きをする成分で、細胞膜や神経伝達物質を構成するのに必要な物質です。脂肪代謝や脳の神経細胞のはたらきにも欠かせません。卵黄には他に、ルテインなどの抗酸化成分も含まれています。
近年は、卵を産む鶏の飼料にこだわった鶏卵業者も増えており、こうした業者が生産する卵にはビタミンDや魚脂(EPA/DHA) などを含むものもあります。
卵1個あたりには約200mg程度のコレステロールが含まれています。これは成人の平均1日摂取量の60%程度です。卵を食べると血液検査でコレステロール値が上がるとして避けている方も多いようですが、最新の研究では卵を食べてもLDLコレステロール(悪玉コレステロールと呼ばれる)の値を上げないことが報告されています。
では、なぜ卵を食べると心臓血管に良くないという説が広がってしまったのでしょうか。始まりは「ウサギに卵を食べさせたところ動脈硬化が進んだ」というロシアの研究からとされています。その後、欧米諸国の疫学研究で卵の摂取量と心臓血管疾患の発症率が注目されるようになりました。
一方、「卵を食べても血中コレステロール値は上がらないし、心臓血管疾患による死亡が増えることもない」とする今回の研究は、3つの大きな研究結果を解析したもので、50カ国、約17万人が対象ですので、この結論はかなり説得力があるものと言えそうです。
卵を食べることが骨粗しょう症を予防する可能性があることを指摘した研究成果も発表されています。米国の約1.9万人を対象に、卵の摂取量と骨密度との関係について調べた結果、1日あたり約100gの卵(Mサイズ2個)を食べている人では、大腿骨と腰椎の骨密度が高くなっていることがわかりました。
骨密度を上げるには、ビタミンDやカルシウムの摂取が必要と知っている人は多いと思いますが、良質なたんぱく質も十分になければ、カルシウムなどのミネラルから骨を作り上げることができません。特に高齢者の場合、消化力が弱くなることや食事量が少なくなることから、たんぱく質不足に陥って骨が弱くなってしまう傾向も否めません。バランスよく栄養素を含む卵を食べることで骨密度の維持に役立てることができるでしょう。
大規模研究になると、卵の調理方法までは解析することができません。実際に食べるときは、おそらくスクランブルエッグのような黄身の部分を加熱調理した卵料理と、半熟ゆで卵のように黄身の部分があまり加熱調理されていない卵料理では、長い期間で見ると健康面に与える影響に違いがあるものと思われます。
例えば、たんぱく質と糖は自然に結びついて化合物を作る傾向があり、これに熱と乾燥という条件が加わるとAGEs (Advanced Glycation End Products :終末糖化産物)と呼ばれる老化促進物質を作るスピードが早まります。目玉焼きやスクランブルエッグのように黄身を加熱調理した卵料理の場合、熱によってAGEsが多く発生する可能性があります。黄身部分の栄養素自体も損なわれやすくなります。
料理の組み合わせを考えても、スクランブルエッグとパン、ベーコン、コーヒーというアメリカンブレックファーストと呼ばれる朝定食は高塩分・高脂肪、加工肉の添加物などの影響が心配です。温泉卵や半熟卵にご飯と味噌汁、焼き魚といった和定食の方が栄養学的には優れています。
もちろん、毎日同じものばかりでは飽きてしまいますし、栄養の偏りも生じます。たまにはスクランブルエッグも良いのですが、食べているものの意味を知って、調理方法を工夫しながら食事内容を考えてみてください。その中で、1日1〜2個の卵を食べることを習慣づけましょう。
ただし、卵アレルギーの方は例外です。最新の検査では、卵に対するアレルギー反応を調べることも可能になっていますので、かかりつけ医にご相談されることをおすすめします。
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