「炎症」というと、関節炎などの痛みをイメージする方も多いかもしれません。細菌やウイルスなどに感染してのどが腫れたり、熱が出たりするのも、体の炎症反応によるものです。じつは、このような自覚できる症状として表れなくても、日々、体内のいたるところで炎症が起こっています。炎症とは細胞が傷つくことで生まれる現象で、外から侵入してくる外敵と免疫細胞が闘ったあとの〝焼け野原〟のような状態だと考えるとわかりやすいかもしれません。
炎症は体にとって自然かつ必要な反応なのですが、慢性的に炎症レベルが高くなってしまうと、健康にさまざまな弊害をもたらします。内臓や血管などで起きた慢性的な炎症は自覚しづらいのですが、やがてさまざまな病気へとつながる可能性が高まります。動脈硬化、発がん、認知症など、現代人の主な死因となる深刻な病態を作り出す原因にもなり得ます。
炎症を抑える食べ物として、オメガ3系脂肪酸を豊富に含む魚の油などが代表的ですが、どうやら発酵食品にも炎症を抑える力がありそうです。最近、スタンフォード大学から発表された報告によれば、発酵食品を食べ続けることで全身の炎症性マーカーの減少が見られたということです。10週間にわたり発酵食品を摂るグループと、食物繊維を多く摂るグループに分けて腸内細菌叢の変化について調べたこの研究では、発酵食品を摂ったグループだけ腸内細菌叢の種類が増えていました。さらに炎症性細胞の活性や炎症性マーカーが低下していました。つまり炎症が抑えられていたことが推測できます。
発酵食品には乳酸菌や麹菌、酵母など腸内環境を整える素材が多く含まれ、免疫の機能を正常に保つためにも欠かせない食品です。他にも、食材のおいしさを引き出すこと、保存性を高めること、栄養素の消化吸収を助けることなど、さまざまなメリットがあります。炎症を抑える目的のみならず、さまざまな健康への恩恵を受けられるという意味でも、発酵食品は毎日積極的に摂りたい食品です。
上記の研究で用いられた発酵食品は、ヨーグルト、カッテージチーズ、キムチ、塩漬け野菜飲料など海外で親しまれているものが中心でしたが、日本人の腸内環境には和食に使われる食材の方がより合いやすいと思われます。
特に納豆菌は食品類の中で最も増殖力が強い菌として知られ、納豆は世界にもスーパーフードとして認められつつあります。納豆菌があると乳酸菌のはたらきを強めることも知られています。また、味噌や日本酒づくりに欠かせない麹菌は日本にしか存在していない貴重なもので、麹菌によって数多くの発酵食品が生み出されました。日本は1000種類を超える発酵食品に恵まれた世界で唯一の発酵食品大国でもあります。自然界の恩恵に感謝して、日本古来の食品を中心に、さまざまな発酵食品を積極的に食生活に取り入れましょう。
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