健康な食事を考えるとき、「栄養を偏りなくバランスよく摂りましょう」とよく言われます。誰もが頭ではわかっていても、毎日実践するのは至難の業です。現代は美味しいものの誘惑や多すぎる食の選択肢が溢れているからです。
マウスの研究ですが、1960年、1975年、1990年、2005年と時代ごとに日本人の家庭の1週間分の食事内容を再現して比較した、面白い研究があります。これによると、年を経るごとにたんぱく質と脂質が増え、2005年は1960年のほぼ3倍にまで増加していました。一方、1975年の食事内容は内臓脂肪が増えるのを防ぐとされていました。その理由を、「栄養成分が満遍なく含まれていたから」と結論づけています。
1970年代の食事といえば、多くは、ご飯(主食)、味噌汁(汁物)、主菜は魚が中心で、野菜、きのこ、豆、海藻類などを使った副菜が二品加わる「一汁三菜」と呼ばれるスタイルでした。この中で多種類の食材を少しずつ組み合わせる献立からは、炭水化物(糖質)、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラル、食物繊維の6大栄養素がバランスよく摂取できます。さらに、納豆や醤油、味噌などの発酵食品が豊富で、腸内環境を整えるのにも貢献します。栄養学的に見て、和食は世界のどの食事スタイルよりも優れているように思えます。
南北に長い日本列島では、海や山で採れる特産物や季節ごとに食べ頃を迎える「旬」の食材に恵まれています。これらを活かした和食の利点は、なんといっても「魚介類や海藻など海産物が豊富で肉食に偏らない」という点。魚は良質なたんぱく源となる以外にも、EPA(エイコサペンタエン酸)・DHA(ドコサヘキサエン酸)と呼ばれる脂肪酸が豊富に含まれ、体内の慢性炎症を抑えるのに効果的です。また、免疫に欠かせないビタミンDも鮭や青魚に多く含まれます。
海藻や旬の野菜からは多くの種類のビタミン、ミネラル、食物繊維が摂れます。食材の種類をいくつも組み合わせて摂ることで、ポリフェノールをはじめとする抗酸化成分も組み合わせて力を発揮します。中でもキノコに特有の成分については未知の部分も多かったのですが、最近、様々な健康効果がわかってきており、食物繊維の摂取源だけではない新たなキノコの価値が注目されています。
もう一つ、自然薯、里芋、菊芋、長芋などネバネバした成分を持つ芋類が多く使われているのも和食の利点です。これらの芋類を食べることで、体内で男性ホルモン・女性ホルモンのもとになるDHEA (デヒドロエピアンドロステロン)というホルモンを増やすことができます。
また、和食には大豆・豆類を使った食材や料理が豊富です。大豆は植物性たんぱく質のほか、糖質、ビタミン・ミネラル、食物繊維も含みます。大豆イソフラボンという特有成分は体内で女性ホルモンに似た作用を発揮します。大豆は消化しにくい食材のため、摂り過ぎればデメリットもあるのですが、味噌や納豆のように発酵させることで消化・吸収の負担を減らすことができます。まさに先人の知恵と言えます。
納豆、味噌、醤油、塩麹、酢、ぬか漬けなどの発酵食品には、乳酸菌、麹菌、酵母などの微生物が含まれ、発酵の過程で作り出した酵素が栄養素の分解・消化・吸収をしやすくするうえ、美味しく、保存性もよくします。腸内環境を整え、腸内細菌の働きも助けます。世界に誇れる発酵文化から生み出され、受け継がれてきた伝統的な発酵食品は、日本の宝です。これらを積極的に食べないのは、とても勿体ないことです。
栄養面でも、食文化の面からも、和食は優れた健康長寿食です。1970年代の家庭の食卓に並んでいた「一汁三菜」のよさを再認識して、これを基本に献立を組み立てましょう。もちろん、毎日必ず守らなければならないわけではありません。忙しい現代生活の中では「一汁二菜」でも十分かもしれません。基本はバランス重視で、ときには美食を楽しむといったメリハリも豊かな食生活には欠かせません。自分のライフスタイルの中で続けやすい食事スタイルを見つけていきましょう。
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