ストレスがたまったときや運動後など、甘いものが食べたくなる感覚は多くの人が経験していると思います。〝Sweet memory〟という言葉があるように、「甘み」に対して人間は特別な感情を持っているようです。特にストレスの多い現代社会では砂糖を原料とした甘いスイーツなどの需要が高くなっています。しかし、甘いものの摂り過ぎは、血糖値の乱高下を引き起こし、糖尿病、心臓血管疾患など、さまざまな疾患の原因になることも事実です。人工甘味料も含めて、健康を考えるうえで注意したい「甘み」について考えてみましょう。
砂糖の摂取が増えれば増えるほど、ビタミンやミネラルなど、健康を維持するうえで欠かすことのできない栄養素の摂取量が減少するという報告があります。この研究では、最も砂糖を多く摂取していた群では、摂取総カロリーの20%以上の量の砂糖を食べていました。摂取総カロリーを2000 kcal/日と仮定すると、100g以上の砂糖を食べていたことになります。市販の清涼飲料水500mlには約50g、スポーツドリンクでも500mlあたり約30g前後の砂糖が含まれますので、甘い飲料が好きな人などは、簡単に1日100gの砂糖を摂れてしまうかもしれません。本研究のデータから推測すると、健康維持のためには1日に20〜30g程度の砂糖摂取にするほうが良さそうです。
砂糖の弊害を避けるために、代わりに人工甘味料を摂ることを考える人も多いと思います。しかし人工甘味料に頼りすぎることは、新たな疾患のリスクを増やしてしまう可能性があり、要注意です。
10万人を対象として、2009〜2021年にわたり、人工甘味料(アスパルテーム、アセスルファムK、スクラロース)摂取量と疾患発生との関係について調べたフランスの研究によると、人工甘味料を摂取した群は心臓血管疾患や脳血管病変のリスクが増えていました。また、同じ研究者らによる別の研究では、人工甘味料摂取が発がん率の上昇につながることも報告されています。
この研究ではエリスリトールは取り上げていませんでした。エリスリトールはトウモロコシを発酵させて作られ、砂糖の70%程度の甘さを持つ人工甘味料で、比較的安全であるとされ、清涼飲料水や菓子類など多くの食品に添加されています。このエリスリトールを長期に摂取した場合の安全性については検証されていませんでしたが、最近になって、エリスリトールを常用することは健康上の問題、特に心臓血管疾患の原因になる可能性を指摘する研究も米国から発表されています。体重コントロールなどの目的で、エリスリトールを砂糖の代替品として利用することは避ける方が良さそうです。
人工甘味料についてはまだ研究が十分ではなく、体への影響についてわかっていないことも多いのが現状ですが、人工甘味料の多くは厚労省によって摂取制限が設けられています。少なくとも、人工甘味料は腸内細菌叢を変化させてしまうというリスクがあります。いずれにせよ、安易に摂取すべきものではないでしょう。
果糖は果物類に多く含まれる糖質の一種ですが、果糖の摂りすぎは脂肪肝の原因となり、さらに糖尿病のリスクとなります。果物にはビタミンやミネラル、食物繊維も含まれていますが、最近の果物類は糖度が高くなっており、このようなリスクが増大しているということを意識しておく必要があります。糖尿病を予防するために、サルに与える果物の量を減らしているという動物園もあるようです。これは動物だけの問題ではなく、私たち人間にとっても、糖度の高い果物を多く食べることの危険性は同じです。
果糖の供給源は果物だけではありません。特に注意して欲しいのが「異性化糖」(高フルクトース・コーンシロップ)です。原材料の表記には「ブドウ糖果糖液糖」「果糖ブドウ糖液糖」と記され、市販されている清涼飲料水、菓子類などに広く使われています。こうした飲料などに含まれる果糖は食物繊維を含みませんので、果物を食べるよりもさらに深刻な健康被害につながる可能性が指摘されています。
強い甘みを日常的に摂取していれば、甘みに対してどんどん鈍感になり、もっともっとと中毒にも似た渇望を引き起こします。これを「シュガークレービング(糖分渇望)」といいます。
砂糖をたっぷり使った甘いスイーツは意識しやすいですが、無意識のうちに糖分を摂取してしまいがちなのが飲料です。甘味のついた清涼飲料水のほか、果汁100%のジュースも1杯で20〜25gの糖質を含んでいます。栄養ドリンクも小瓶1本で約20gの糖質が含まれています。
飲料は甘くないものを基本にし、どうしてもデザートが食べたいときは、砂糖がたっぷり使われた菓子よりも、ビタミン、ミネラルが摂れる果物を少量楽しむようにしましょう。料理などに使う糖は精製度が低くミネラル分が残っている黒糖、きび糖など「茶色い糖」を選ぶことをおすすめします。ただし、それほど成分に大差があるわけではありません。いずれも質と量を考え、上手にコントロールして利用しましょう。
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