魚(特に青魚)に多く含まれる栄養素といえばEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)がよく知られています。これらは「オメガ3脂肪酸」と呼ばれる多価不飽和脂肪酸の一種で、その効用は医学的にも広く認められています。特に、血液をサラサラにして血栓を予防し、心筋梗塞や脳卒中などの血管病を防ぐ作用があるということはご存じの方も多いでしょう。
オメガ3脂肪酸に心筋梗塞の予防効果があることがわかったのは1960年代のことです。当時「イヌイットは動物性脂肪たっぷりのアザラシの肉を食べているのに、なぜ気管支喘息や心筋梗塞の発症率がデンマーク人より大幅に低いのか」という謎が注目され、アザラシの肉を調べたところ、その中にはイワシやニシンに多く含まれるEPAやDHAが大量に含まれていました。ここからEPAに血栓予防の働きがあることが知られるようになり、心筋梗塞予防の目的でEPAを摂取すべきという一般常識にまで広がったのです。
近年の研究により、オメガ3脂肪酸のこうした効用の土台に体内の炎症を抑える働きがあることもわかってきました。炎症とは細胞が傷ついたときに起きる反応のことで、虫に刺されたときの皮膚の変化のように、赤く腫れて熱を持ち、痛みを伴うのが特徴です。このような炎症反応は脳の細胞でも起きていることが指摘されており、慢性の炎症を防ぐオメガ3脂肪酸には、脳細胞の病的変化を防ぐ力があるのではないかと言われています。
さらに、人間が生きていくうえで必要不可欠な、神経・免疫バランスを調節するシステム(エンド・カンナビノイド・システム)を維持するためにも、オメガ3脂肪酸が欠かせないことがわかってきました。
魚脂が脳萎縮を予防する効果について述べた報告や、うつ病予防に関する報告もあります。うつ病患者22名について、EPA 3g /日とDHA1.4 g/日を12週間服用した結果について調べた研究では、EPAとDHAを服用した患者で血液中の抗炎症成分が増えており、うつ様の症状も軽快していたことがわかりました。うつ病を予防するだけでなく、治療としても効果がある可能性が指摘されています。
うつ症状は様々な原因で生まれますが、その一つに脳の炎症反応も考えられます。脳の炎症を抑えるためには一般的に抗炎症剤が使われますが、医薬品以外の方法として、ビタミンCなどの抗炎症作用のある栄養素を多めに摂ることがすすめられています。炎症を防ぐ働きがあるEPAやDHAを日頃から積極的に補充することもうつ病の予防になると考えられます。また、認知症の基盤にもゆっくりと進行する慢性炎症があると考えられていますので、炎症を促進させるものを減らし、炎症を抑える栄養素を積極的に摂取することは、認知症の予防にもつながります。
なお、DHAに代表される長鎖多価不飽和脂肪酸を含む食事摂取は、脳の学習・記憶、神経炎症プロセス、神経新生などに良い影響を与えることが示されています。現代人の食生活ではDHAの摂取が不足気味の方が増えてきているようですので、意識してDHAを多く含む魚を食べてほしいものです。
脳の健康を守るためにも、オメガ3系脂肪酸を多く含む魚を週に3日は食事のおかずとして摂りましょう。ただし、魚ならばどれでもよいのかというと、現代は環境汚染の問題があり、答えは簡単ではありません。環境に排出された有害金属などは食物連鎖を通じてプランクトンから小型の魚、大型の魚へと蓄積していきます。マグロなどの大型の魚はたまに楽しむ程度にして、日常ではアジ、サバ、イワシ、サンマなどの小型の青魚または鮭を食べることをおすすめします。
一日あたりのEPA・DHAの摂取量1000 mg 以上を目安に、缶詰なども使いながら上手に摂取しましょう。魚脂のサプリメントを利用するのもよいのですが、有害金属を含んでいないことを明記した高品質の製品を選ぶことが大切です。
日々の食生活に気を配り、EPA・DHAを十分に補給して、心や脳への負担も多い今の時代を元気に乗り越えていきましょう。
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