「酒は百薬の長」と言われますが、はたしてこれは本当でしょうか。飲酒と健康についてはさまざまな議論が続いています。
過去の研究では「適量の飲酒は心筋梗塞など心疾患を減らす」ということが指摘されています。適量の飲酒は認知機能のサポートにもつながるのではないかという最近の研究もあります。約2万人を対象に9年間にわたって調査を行なった結果、適量の飲酒習慣のある人は全く飲まない人に比べて認知機能が低下するスピードが遅く、言語能力や記憶力などの脳機能についても検査の成績がよかったというアメリカの報告です。
これらは酒飲みの人にとってはうれしい情報ですが、飲み始めてしまうと適量なのか大量なのかわからなくなるというのが悩みのタネでもあるでしょう。
一方、アルコールにはリスクもあります。短時間に大量の飲酒をすることで血液中のアルコール濃度が急上昇して脳に影響を与える「急性アルコール中毒」や、慢性的な「アルコール依存症」だけでなく、アメリカでは「アルコールによる発がん」も注目されています。アルコールが体内で代謝されて生まれるアセトアルデヒドという有害物質が遺伝子に直接作用し、発がんを促進すると考えられています。また、アセトアルデヒドが活性酸素を増やして炎症反応を起こしやすくすること、細胞中のビタミンB6や葉酸など有益な成分を減少させるはたらきがあることなども、発がんにつながるリスクファクターです。
こうしたリスクを減らすためには飲酒量を減らすことが最善策ですが、少量の飲酒でも大きく影響を受けてしまう人もいます。その理由は、アセトアルデヒドを分解する能力に個人差があるためです。分解能力は遺伝子によって次の3つのタイプに分けられます。
下戸の人(AA型)はアルコールが飲めないのでリスクそのものがありません。大量に飲める人(GG型)は、発がんリスクよりもアルコール依存症になるリスクに注意が必要です。発がんリスクに注意しなければならないのは、中間タイプの少量で顔が赤くなるが習慣である程度飲めるようになる人(AG型)です。飲めるけれどアセトアルデヒドの分解は遅いので、長時間体内に影響が残ることになります。
こうして見てみると、健康に有益な飲酒とは、「自分自身の遺伝子のタイプを知って弊害を防ぎながら、適量を楽しむ」ということに尽きるでしょう。「酒は飲んでも飲まれるな」という先人の言葉に優るものはなし、ということかもしれません。
ちなみに先の研究で用いられたアメリカにおける適量の指標は、1週間あたり女性8ドリンク未満、男性15ドリンク未満(1ドリンク=アルコール14g=7%のビール約200ml・ワイン約100mlに相当)と定義されています。日本で厚労省は「節度ある適度な飲酒は1日平均純アルコールで20g程度」としています。ただし、女性や高齢者はこれよりも少なくすべきと推奨されています。個人差も大きいため、自分にとっての適正飲酒量を知ることが大切です。
タバコについては、健康面で「百害あって一利なし」が明らかです。喫煙は肺がんのリスクファクターであるということはよく知られていますが、食道がん、咽頭・喉頭がん、胃がんなど他のがんのリスクも高めます。循環器系や呼吸器系への弊害もありますし、近年の研究では、たとえ1本でも健康被害のリスクが高くなることや、周囲の人の副流煙の影響も無視できないことなどが明らかにされています。さらに、喫煙は骨格筋を損傷することもわかりました。体力や運動能力を著しく低下させるものをわざわざ摂取して、パフォーマンスを落とす必要はありません。自分自身だけでなく、周囲の健康のためにも禁煙をおすすめします。
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