最近は「腸活」という言葉をよく耳にするようになり、腸内細菌が私たちの健康に大きな影響を与えていることが知られてきました。私たちの腸内には、個人差はあるものの、平均して約1000種類、100兆個以上の細菌が生息していると言われます。重さにすると約1〜2kgにもなります。驚くべきことに、近年、腸内細菌とメンタルとの関係も明らかになりつつあります。うつ病、多発性硬化症、自閉症など脳神経系の疾患との関係が指摘されています。およそ40種類の神経伝達物質が腸内で合成されており、例えば、精神を安定させる働きを持ち「幸せホルモン」とも呼ばれる神経伝達物質のセロトニンは、その8割以上が腸内細菌によって作られています。そのため、下痢や便秘などが慢性化している人はメンタルにも不調が現れやすく、過敏性腸症候群の人の8割はうつや不安などの症状があると言われています。
日本語には「腹の中がわからない」「腹を割って話す」「腹が座る」というように、腸とメンタルがつながっていることを示唆する表現がいくつもあります。医学的にも「脳腸相関」「腸は第2の脳」など、以前からメンタルと腸は深く関わっていると言われてきましたが、腸内細菌の研究が進むことによって、そのメカニズムが解明されてきたのです。腸内細菌は細胞にある遺伝子の約100倍もの遺伝子を持っていることもわかっています。ということは、私たち人間は自分の意思というよりも、腸内細菌によって動かされているのかもしれません。
腸内細菌は大きく「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」に分けられ、善玉菌と悪玉菌の分布バランスによって、さまざまな不調や体の病気、思考や心の状態、寿命までも決めている可能性が指摘されています。偏った食生活やストレス、飲酒、加齢などによって悪玉菌が増えるので、善玉菌を優位に保ちたいところですが、悪玉菌にも大切な役割があるのでゼロにすればいいというわけではありません。豊富な種類の菌がバランスよく生息していることが大切です。
今、人々が保有する腸内細菌の種類が減ってきているという報告もあります。仮に母親に1000種類の腸内細菌がいるとすると、その子どもは100種類になってしまうくらいの劇的な変化が起こっていると言われます。その研究者らは抗生物質の多用を原因の一つと指摘しています。抗生物質に頼りすぎることもそうですが、清潔志向が進み、殺菌・滅菌しすぎるあまり、良い細菌まで殺されてしまうことも関係していると思われます。もちろん、新型コロナウイルスのようなウイルスは退治しなければなりません。しかし、細菌の中には良い作用をしているものもあり、多種多様な菌が共存することで一定のバランスが成り立っているのだということは覚えておきましょう。
良い腸内環境を保つために欠かせないのが、発酵食品や食物繊維です。発酵食品を食べることで、体にとって有益な菌や、酵素などの菌が作り出す物質を取り入れることができます。また、食物繊維には水に溶ける水溶性食物繊維と、水に溶けない不溶性食物繊維があり、腸内細菌のエサになるのは主に水溶性の方ですが、どちらもバランスよく摂ることで理想的な腸内環境に近づきます。健全なメンタルを維持するには、健康な腸内環境を保つことも大きく貢献します。毎日の食事の中で発酵食品や食物繊維を上手に取り入れましょう。
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