「1日のリズムと食べる時間」では、「朝夕は軽く、昼しっかり」食べること、そして「食べない時間」を意識的につくることが大切だとお伝えしました。最近の研究では、食べる時間を12時間以内に制限することによって睡眠の質も改善が見られることがわかりました。これは体内時計(サーカディアンリズム)がより自然に機能するようになったためと考えられ、結果的に生活全体の質にも影響します。
食事の量や頻度、そして食べるタイミングが健康管理を行ううえでとても重要なのですが、このことは意外と知られていないようです。もっと言えば、「食べることを休む」習慣を少しずつでも増やすことが大切です。現代人の多くは空腹を感じる前に食べてしまう傾向にあり、それによって大事な生命維持機能が阻害されているからです。あなたは最近、ぐーっとおなかが鳴るような空腹感を感じましたか?
空腹にまさる調味料はないと言われますが、健康面から見ても、空腹のメリットは大きいものです。
その一つは、空腹でいると、栄養が届かなくなった細胞の中で、古くなった酵素や不要になったたんぱく質などの大掃除を始めること。これを「オートファジー(自食)」といいます。空腹を感じる時間がなく食べてばかりいると、このデトックス効果が発揮されることなく、不要なものが細胞内に溜まっていきます。
二つめは、ホルモンの働きです。空腹を感じると脳は「グレリン」というホルモンを分泌し、反対におなかがいっぱいになると「レプチン」というホルモンを分泌します。本来、この二つのホルモンがシーソーのように上がったり下がったりすることで、私たちの食べる行動をコントロールしているのですが、うまく機能していない人が多いのです。さほどおなかが空いていないと、グレリンの分泌はわずかです。そこで何かを食べてしまうとレプチンもうまく分泌されません。レプチンがしっかり分泌されれば食べ過ぎることはないのですが、これが分泌されないと食べている割には満腹感を感じられずに、結果として食べ過ぎて太ってしまいます。
最近では断食(ファスティング)という言葉も市民権を得ましたが、食べ過ぎが続いているというときには、ゆるい断食を行うことも体調を整えるうえで有効でしょう。ファスティングにはさまざまなやり方が提唱されていて、科学的な有効性は明らかになっていません。水以外は口にしないといった極端な方法は、専門家の指導のもとに行うようにしましょう。
おすすめは、食事代わりに野菜のスムージーを飲む、消化の良いスープを少量とるなど、あまりストレスなくできる「プチ断食」です。平日はコントロールしにくいという人も、休日などにこうしたファスティングを意識的に取り入れることで胃腸など消化器を修復させ、リセットするとよいでしょう。排泄機能も高まり、老廃物を排出することで体が軽くなるという利点もあります。
短期間の絶食で、体内の慢性炎症が緩和される方向にはたらくという報告もあります。また、ファスティングタイム(食事と食事の間隔)が長いほうが健康長寿に効果的であるという報告もあります。
ライオンなど野生の動物は、空腹のときは必死に獲物を探して満腹になればそれ以上食べません。ですから肥満のライオンなどはいません。同じように、人間も少し空腹状態の方が神経も研ぎ澄まされ、生命体として強くいられます。実際に、空腹を感じることでサーチュイン遺伝子と呼ばれる長寿遺伝子の働きが活発になることがわかっていますが、このことは、人間も一つの細胞からできている生命体であることを思い出させてくれます。「空腹感を忘れかけていた」という人は、ぜひ、空腹を感じてから食べる習慣を取り戻してください。
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