「味」と「風味」。よく似た言葉ですが、どのように使い分けていますか?「味」は食べ物を口に入れたときに舌で感じるもの。「風味」は、「味」だけでなく「香り」も含めて表現するときに使うことが多いようです。風味がいいということは、味も香りもいいということ。おいしさを感じるのは、味覚だけでなく嗅覚も大いに関係しているのです。
嫌いな食べ物の味をわからなくするために、子どもが鼻をつまんで食べることがあります。実際、私たちの脳は、味の情報の95%を嗅覚から得ているそうです。風邪をひいて鼻が詰まっているときに食べ物をおいしく感じないのは、嗅覚の働きが悪く、残り5%の情報しか味覚(舌)で感知していないからなのです。嗅覚は、食事においてとても大切な役目を果たしているんですね。
かつおだしのいい香りや、しょうゆやみその香ばしさは、食欲をかきたてます。できたての料理のいい香りにつられ、さほどおなかがすいていなくても「食べたい ! 」と思うこともあります。本物の香りには、人工的に作られたものとは違う力があります。いちごの甘酸っぱい香り、ステーキがまとうガーリックの香り、焼き菓子の甘いバターの香り、コーヒーのリラックスできる香り。香りは食欲をかきたてるだけでなく、気分転換の効果もあり、食材の食べごろや調理、加熱時間のほどよいタイミングを知らせてくれる合図にもなっています。
今回レシピをご紹介したパンも、焼きたての香りが漂うだけで、幸せな気分になりますね。パン作りは材料ぞろえや計量に手間がかかると敬遠しがちですが、冷凍のパン生地を使えば、そのストレスから解放され、手軽においしさと達成感が得られます。パンにかぎらず、食材や料理の香りを堪能できるのは、心にゆとりがあるときではないでしょうか。あわただしい日々の暮らしでは、「早く食べなさい」と子どもをせかすことがあるかもしれません。ときどきは食べ物の香りを楽しめるほどに心に余裕を持てるといいですね。食べ物の香りをかぐと、その香りにまつわる過去の出来事を思い出すことがあります。食べ物のいい香りで食欲が刺激されるのは、過去のおいしい体験の記憶。どうぞ、子どもたちに楽しい記憶をたくさんつくってあげてください。食育とはお勉強ではなく、おいしく楽しい経験値の積み重ねなのです。
浜内 千波さん
「家庭教師のカリスマ」とも呼ばれ、料理のあらゆる知識に精通している人気料理研究家。テレビ、雑誌、講演会での活躍のほか、朝食を紹介するTwitterや料理のコツをYoutubeで配信。また、毎月、「浜内千波ファミリークッキングスクール」のオンライン料理教室も実施中。
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