幼児は興味のあるものに手をのばし、何にでも触れようとします。その感触から得るさまざまな情報が刺激となり、脳の発達につながるといわれています。キッチンは危ないからと子どもを遠ざけがちですが、食材をさわるという体験によって学ぶことも多いのではないでしょうか。大人のまねをしたがる幼児期ならではの好奇心を育てつつ 、食への関心を高めていっていただきたいですね。
食にまつわる触覚には、食材をじかにさわったときの感覚と、口にしたときの食感の2つがありますね。調理前の食材に触れることは、食に関心を持たせる第一歩です。ざらざら、ぬるぬる、つぶつぶ、また、堅さの違いを感じることもあるでしょう。それぞれの手ざわりから情報を得て、食材を知り、「なぜ」という好奇心もはぐくみます。そして調理後は、舌ざわり、歯ごたえ、のどごしなどで、もう一度その食材の感触を体験し、「おいしさ」を理解していきます。 2つの触覚の経験が、食の喜びを育てていくのだと思います。
今回レシピをご紹介したクッキーは、子どもの触覚を刺激するのにぴったりのメニューです。さらさらとした粉が油を含んでまとまり、見た目も触れた感じも少しずつ変化する様子は、子どもにとって驚きです。生地をのばして型で抜くことは、粘土遊びのようにワクワクする体験。また、焼き上がりをほおばれば、サクサクとした食感が楽しい。「上手に型が抜けたね」「おいしいね。お口の中でサクサクするね」と、一つ一つ親子で確かめ、会話しながら作ってみてくださいね。
手作りのおやつは、素朴なものにこそ本来の価値があると思うんです。その価値は、楽しい食の時間を親子で共有した記憶です。シンプルな材料を使い、思い立ったらすぐに作れて失敗がない。作る人の負担感が少なく、気楽に繰り返し作れるのは、素朴なおやつだからこその魅力。豪華なお菓子はおいしいものですが、それなりに手間がかかりますね。大変そうな親の姿を見た子どもは「これはいやな仕事なんだ。料理ってめんどうなんだ」と感じてしまうことでしょう。それに比べて、お母さんが笑顔で作る素朴なおやつは、ささやかであっても、幸せな思い出として子どもの心に残ります。それは日常の記憶の奥に埋もれてしまうかもしれませんが、10年後、15年後、ふとした瞬間に思い出し、その意味を理解してくれるのではないかと思うんです。
浜内 千波さん
「家庭教師のカリスマ」とも呼ばれ、料理のあらゆる知識に精通している人気料理研究家。テレビ、雑誌、講演会での活躍のほか、朝食を紹介するTwitterや料理のコツをYoutubeで配信。また、毎月、「浜内千波ファミリークッキングスクール」のオンライン料理教室も実施中。
Related Article