秋はキノコが美味しく食べられる季節です。特に日本はナメコ、マイタケ、シメジ、マツタケ、キクラゲ、シイタケ、エノキダケなど、さまざまな種類の食用キノコに恵まれています。これほど多様なキノコが食べられる国は珍しいのではないでしょうか。
キノコの健康効果は、これまであまり知られておらず、カロリーがほぼゼロに近いことから「ダイエットに役立つ」くらいに考えられることが多かったのではないでしょうか。キノコは菌糸体によって産生される独特の食品で、その成分については未知の部分も多いのですが、最近は成分の研究が進み、近年、キノコの話題が多くなってきています。
キノコの健康効果の一つは、重量比で考えると食物繊維の量が野菜類と比較しても群を抜いて多いということです。葉野菜などは加熱するとカサが減ってしまいますが、キノコはほぼそのままであることからもわかるように、食物繊維摂取の強い味方になります。
食物繊維は、いわば「食べる整腸剤」のようなもので、腸内細菌叢のバランスを整えるのに欠かすことのできない栄養素で、便通改善効果が期待できます。善玉腸内細菌のエサとなり、便通をスムーズにして腸内の有害物質の排泄を促します。また、食物繊維が腸内環境を整えることで、さまざまなビタミンが作り出されることもわかっています。
また、糖質を摂取するときに一緒に食物繊維を摂ることで血糖値の上昇を緩やかにする効果もあります。特に水溶性食物繊維は水に溶けるとゲル状になって膨らみ、食べ物を包み込むため、食べたものが胃腸で消化されにくくなり、そのため吸収がゆっくりになります。
キノコの中でもキクラゲには水溶性食物繊維であるペクチンが含まれており、腸内細菌叢のバランスを維持する働きがあります。キクラゲには血液を固まりにくくする作用、糖尿病治療効果などがあることも報告されています。
もう一つ、キノコはビタミンDを多く含んでいます。キノコに含まれるのは植物由来のビタミンD2で、人体にとっては動物由来のビタミンD3の方が利用しやすいのですが、ビタミン D2でも多めに摂ればD3と同様の健康効果が期待できます。
最近では、キクラゲのビタミンD含有量を通常の乾燥キクラゲの約200倍に増やす栽培技術が登場し、キクラゲから大量生産したビタミンDを粉末化してさまざまな食品のビタミンD強化やサプリメントなどへ応用するといった可能性も期待されています。こうした技術開発により、キノコのパワーの恩恵を得られやすくなってきていると言えるでしょう。
特定の健康成分が豊富なキノコもあります。エリンギやヒラタケには「エルゴチオネイン」という、アミノ酸から作られる強い抗酸化作用を持つ栄養素が多く含まれていることがわかっています。エルゴチオネインは細胞内のミトコンドリアに集まり、ミトコンドリアの酸化を防ぐ働きがあるとされています。その結果、抗炎症作用、DNA損傷の予防、さらには認知症予防などの効果が期待されます。北海道で採れる「たもぎ茸」には特に多くエルゴチオネインが含まれることが知られています。
霊芝、シイタケ、マイタケなどには「βグルカン」が含まれ、免疫力向上に役立つと言われています。βグルカンは多糖類の一種で、血糖値の上昇を緩やかにすることが報告されています。さらに、βグルカンには、ヒトの免疫力を高める働きや神経機能の維持にも効果があることがわかってきています。霊芝は約2000年前に編纂された中国最古の薬物書「神農本草経」に不老長寿の薬として記載されているそうで、古くから免疫賦活化作用があるとして珍重されてきました。霊芝は日常的に食べるものではありませんが、シイタケやマイタケならスーパーで手軽に入手できます。
食物繊維の摂取源として、またビタミンDや特有成分の摂取源として、美味しいキノコ料理を積極的に取り入れましょう。一度の調理で多めに作って作り置きしておけば手間も省けますし、食物繊維は時間が経過しても量が減ることはありません。
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