「健康な人でも不足している3つの栄養素」でお伝えしたように、健康維持に重要であるにもかかわらず、現代生活で不足しがちな栄養素の一つに「亜鉛」が挙げられます。亜鉛は免疫力アップに欠かせない栄養素でもあります。ここでは、亜鉛について、もう少し詳しく見てみましょう。
亜鉛は体内で200種類以上の酵素に関与して、さまざまな代謝を行なっています。私たちが摂取したたんぱく質やアルコールを代謝できるのも、亜鉛のはたらきがあるからです。また、亜鉛はスーパーオキシドディスムターゼ(SOD)という抗酸化酵素の活性中心(必須構成成分)として、細胞を酸化ストレスから守るサビ止めのはたらきをしています。さらに、亜鉛はDNAの転写や修復といった細胞活動の重要な過程にかかわり、細胞分裂のきっかけとなるスイッチを押すような役割をはたします。たんぱく質の合成、性ホルモンの分泌、視力や聴力、味覚の維持などさまざまな体のはたらきに関与する極めて重要な栄養素なのです。水銀などの有害金属を体外へ排泄するはたらきもあります。
このように細胞活動の根幹に関わっているため、亜鉛が不足すれば、DNAレベルで問題が起き、全身に影響が及びます。当然、免疫機能の維持にも関わります。亜鉛不足になると、粘膜の防御機能が衰え細菌やウイルスなどの病原体が侵入しやすくなってしまいます。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)についても、「血中の亜鉛濃度が低いほどCOVID-19の予後が悪い」「亜鉛はCOVID-19感染の重症化を防ぐ可能性がある」といった報告が相次いでなされており、「亜鉛欠乏状態にあるCOVID-19患者では、重症化するリスクが5.5倍も上昇する」とする最近の報告もあります。
免疫力の維持に欠かせない亜鉛ですが、加齢に伴って胃腸からの吸収が低下するため、体内の亜鉛の総量は減少し、特に70歳以上の高齢者では亜鉛が不足する傾向が知られています。にもかかわらず、摂取量も加齢とともに減少しているのが大きな問題です。亜鉛の1日の摂取推奨量は成人男性で11mgですが、現代人の食生活でこの量を満たすのは極めて難しいでしょう。
血圧の薬などが影響して亜鉛が吸収されにくくなることもありますし、糖尿病や肝臓・腎臓の機能不全、アルコールの代謝などでも排泄過剰になります。飲酒量が多ければ代謝のためにそのぶん亜鉛が使われてしまいますので、特にお酒を飲む機会が多い人は亜鉛不足になりやすい傾向があります。吸収不全(入ってくる分が不足)でも排泄過剰(出ていってしまう分が多い)でも亜鉛は不足してしまいますので、積極的に亜鉛を摂取することをおすすめします。
亜鉛を多く含む食材はなんといっても牡蠣です。大ぶりの牡蠣を4〜5個食べれば15mg程度は補充できます。このほかレバーやチーズ、卵黄、ナッツ、ピュアココア、抹茶、ごま、米ぬかなどにも比較的多く含まれていますので、これらの食材を意識して摂るようにしてみてください。食事だけで補充するのが難しい場合はサプリメントも活用しましょう。
Related Article