健康ブームの中、ココナッツオイルはどこのスーパーでも売られる、すっかりおなじみの調理油となりました。ココナッツオイルは25度以下で白く固まる油です。
その組成は飽和脂肪酸を約90%含む植物性油脂で、ココナッツオイルの成分の約6割は、中鎖脂肪酸という分子量の小さな脂肪酸が占めます。中鎖脂肪酸(Medium Chain Triglyceride)は頭文字をとってMCTとも呼ばれます。最近では、中鎖脂肪酸を多く含むココナッツオイルやパームオイルからMCTだけを精製して作った100%MCTのオイルも販売されています。
また、ココナッツオイルには「ラウリン酸」と呼ばれる中鎖脂肪酸の一種が約50%含まれており、これが体内で抗ウイルス成分に変化して天然の抗生物質のような働きをすると言われています。感染症予防や免疫力アップにも役立つ可能性があります。
中鎖脂肪酸(MCT)は、他の脂肪酸と代謝経路が異なり、腸管からすぐに血液中に吸収され肝臓で代謝されるという特徴があります。肝臓で「ケトン体」と呼ばれる物質に変化し、脳に運ばれて神経細胞のエネルギーになります(図)。
ココナッツオイルは速やかにエネルギーになりやすいだけでなく、体内の脂肪燃焼を促進する働きがある、空腹感を抑えて食欲を制限する、などの効果も報告されており、ダイエットに役立つでしょう。糖質制限を行うときも、体はエネルギー源を糖質から脂質メインへとシフトし、脂質の分解が進みケトン体が作られやすくなりますが、このときココナッツオイルをとれば、さらにケトン体の産生が進みます。
図:中鎖脂肪酸の代謝経路
そもそも、ココナッツオイルが栄養医学の世界で注目され始めたのは、認知症の予防や治療に役立つ可能性が報告されたからです。伴侶がアルツハイマー病と診断された米国の小児科医が、ココナッツオイルを食事に加えたところ、症状が改善され、日常生活の質も大きく改善したと述べています。ココナッツオイルを服用した結果、血液中のケトン体が増え、神経細胞のエネルギー源を確保しやすくなったことが理由と考えられています。脳細胞は糖質しかエネルギー源として利用できないと言われていた時代もありましたが、これは謝り。先ほど述べたように、ケトン体は脳細胞のエネルギー源になります。
認知症以外にも、難治性の脳神経疾患に対してココナッツオイルが有効に作用するという報告が増えつつあります。確実なことは今後の研究の成果を待たなければなりませんが、認知症予防や脳のコンディションアップのためにも習慣的にココナッツオイルを摂取してはいかがでしょうか。
ただし、いくら健康に良いからといっても、摂りすぎは禁物です。また、製品選びに注意しましょう。高温処理されたものは有害なトランス脂肪酸が混入してしまうため、低温抽出(コールドプレス)のものを選びましょう。「エクストラバージン」の表記があれば目安となります。
ココナッツオイルの飽和脂肪酸は加熱しても安定しているため、加熱調理に使うオイルをココナッツオイルに変更することをおすすめします。コーヒーやヨーグルトなどに加えても手軽に取り入れることができます。
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